夫を看取った妻「う」様の語り

肺がんの夫を妻が看取った語り

 余命は病院であと一、二か月といわれ、最期は家でと思っていたので決心した。看取りの期間は四十日間。本人も余命を知っていた。

 心臓病、糖尿病、脳梗塞等、別の病気で5年ほど入退院を繰り返していた。リハビリをしていたが体調を崩し、三か月入院し、退院せざるを得ず、連れて帰ったところで検査を受けると肺がんのステージ四と診断された。その時は看護師をしている姪が同居していたが、在宅でもやることは同じといわれ、本人の意志もあって在宅での看取りとなった。

 自宅は十六年前に夫が建てた高齢者住宅、これができた三年後に介護保険ができた。当時としては珍しく、話題になって、新聞等で紹介された。二〇〇〇年に母を2階に造った介護室で三か月ほど介護したことがある。その経験があったために主人自身も在宅死を希望し、私もここで看取ろうと思った。入居者に関しては最期までまだ誰も看取ったことはないが、これまでの母や夫の看取り経験があるため、入居者の、同居していない家族が、付き添い等で協力してくれれば、今後は入居者の看取りもできるかもしれない。なくなった夫は看取りもできる施設をという考えだった。

 夫の家族介護者は子供三人( 同居している長男四八歳、次女三九歳、三女二七歳) や、同居していた看護師の姪、市内在住の夫の兄弟二人が援助してくれた。ケアマネージャーが最初からかかわってくれて、看取りのスタート時は介護度は二、最期は四くらいとなったが区分変更しないまま対応してくれた。三分の二が医療保険、三分の一が介護保険でまかない、訪問診療と訪問看護、訪問リハビリを利用した。生活の援助のために個人的にヘルパーさんもお願いした。自宅がこのような施設なので、普段の仕事を別の人に代わってもらうこともなく、いつもどおりの日常生活を続けながら看取ることができた。リビングのすぐそこに部屋があるので、病院と違い様子をよく見ることが出来た。車の免許がないので入院していた時は仕事を人に頼み、タクシーで出かけなければならず、在宅の看取りはその点が大変楽であった。何より在宅なら、夫といろいろなことを話すことができる。死後の高齢者施設の経営のことを大筋だけでも夫に考えてもらわねばならず、聞いておくこと、決断しておいてもらわねばならないことも多かったので、在宅で良かった。経営している施設の名義のことや、経営のことなどの手続き等で大変忙しくなり、終末期なのにゆっくり出来なかった。

 看護師さんからは、行きたいところはあるかと聞かれたが、生活音を聞いているだけで本人は十分だと言っていた。リビングに座り、お茶を飲みながら入居者の様子を気にすることで本人は満足していた。見送る部屋はリビングの奥の管理室にした。ベッドをいれ、自分は長いすを入れてその横で寝た。

 もともと建物はバリアフリーなのでリフォームはいらなかった。介護用品は保険でレンタルができたため、個人的に用意したものは尿瓶程度。ただそれまでなかったテレビを管理人室用にも購入した。

 途中痛みで気持ちを吐き出すことはあったが最後は穏やかだった。夫はシャンソンが好きだったが、在宅中でもほとんど聞く時間はなく、泣いている暇もなかった。兄弟や入信しているキリスト教会の方たちが代わる代わる来てくれたので、皆と昔話しをして過ごした。墓は教会の墓に入ることになっており、葬式は家族葬でしてほしいと言われたが、ちゃんとすべきであると私が説得し、キリスト教のやり方で、教会で挙げることにした。人の死に関しては、 教会で話を日ごろから聞いていたので「安心していきなさい」といいながら看取った。終末期医療はいらないと考えていたが、疼痛ケアは行い、座薬等で、家族でケアした。座薬は入居している他の人にもしていたので慣れていたが、麻薬系のパッチは危険で難しかったため、看護師の姪にしてもらった。自分一人の時も、何が起きてもしかたないという時期だったので不安はなかった。臨死期は朝五時頃、アイスクリーム食べると聞くと、食べると言ったので食べさせた。最期の会話は「アイスクリームおいしかった」という言葉である。兄弟が集まり二時頃亡くなった。息の仕方が変わってきたので、もう死ぬのだなと思った。母のときも同様に皆が集まって見送ったがその時と同じだった。状況を先生に伝えると静かに見送るよう言われた。先生には亡くなってから連絡した。

 在宅死はちゃんと責任をもってきちっと看る人が一人でもいれば大丈夫。皆その場になれていないから恐ろしく感じてしまうのだと思う。でも死は恐ろしくない。

 母のときと夫のときで、介護保険制度の有無の違いはあったが、利用できるサポートに変化はなかった。ただ今回は良いケアマネージャーさんに出会えたことが肝心だったと思う。

 最期の時は、皆で笑いあいながら様子を見守った。先生からは「理想的な看取り」といわれた。もう何年もたったような気がするが、まだ去年のことなのだと驚いている。

 自分が同じ立場になっても、在宅での自然死がいいが、今後のことなのでわからない。

介護語り、看取り語りの影法師 (背景となる知識を参考図書から説明します)

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