なぜ今在宅療養?在宅での看取り!

 中央社会保険医療協議会の2011年の資料によると、2007年時点での医療機関での死亡者数、介護施設での死亡者数、自宅での死亡者数、その他の死亡者数がそのまま推移すると、日本では2040年に約49万人分の看取りの場所が不足するそうです。人口の増加が期待できない上に、高騰する高齢者医療費の下で、これ以上の医療施設を増設することは現実的ではないとされ、看取りの場所を在宅へと誘導する国の政策が現在進行しています。

 具体的には団塊世代が75歳以上になる2025年を目処に、要介護者や末期がん患者らが地域で暮らすことを可能とする「地域包括ケアシステム」を構築することが目指されているのです。

 日本では介護・医療は国が定めた報酬によって各保険から病院や介護サービスの提供者等に支払われますが、6年に1度改訂されるこの介護報酬・診療報酬が2012年から同時改訂されるようになりました。中心となった概念が「地域包括ケア」で、「24時間対応の訪問介護・看護」や「在宅医療の充実」が強化され、まさに在宅療養、在宅での看取りへの誘導が本格化しました。厚生労働省はこの2012年を「地域包括ケア元年」と位置づけ、在宅での療養や看取りを普及させるための制度改革を行っていますし、その傾向は今後もっと高まっていくでしょう。(厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室,2012)

 しかしこれは、医療サービスや介護サービスのシステム構築や未整備の居住空間を介護環境に改善するだけではなく、介護や看取りが未経験の家族介護者を、大量に発生させることをも意味します。東京家政大学名誉教授でNPO「高齢社会をよくする女性の会」理事長でもある樋口恵子さんはこれを「大介護時代」と呼んでいます。

参考・引用

● 樋口恵子『大介護時代を生きる 長生きを心から喜べる社会へ』中央法規出版株式会社 2012
● 厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室 「在宅医療の最近の動向」
  ⇒ http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/~